【五頭連山】新潟親子遭難事故は助かる命だったか
皆さん、こんばんは。社団法人ランナー龍(たつ)です。
2018年5月5日に発生した ”新潟親子遭難事故” は近年の登山遭難死亡事故の中でも記憶に深いものだと思います。
皮肉にも「こどもの日」にその事故は発生してしまいました。
果たして、この事故は救助次第では助かる命だったのか、後々の反省や考察で考える機会はあったと思いますが、私個人の意見としては、限りなく助かる可能性の低い事故であったと考えます。
それゆえ、この事故は、今後遭難事故を起こさないための貴重な勉強材料として、代表的な遭難パターンのモデルケースとして活用するべきだと思っています。
お亡くなりになられた親子にはご冥福を祈りつつ、今後同じ事例が繰り返されないよう、学習材料として後世に伝えていくべき事案です。
この遭難事故は、登山で注意すべきことの「セオリー」を守らなかったために発生した見本とも言える事故です。
そういったこともあり、今まで敢えて避けてきた事故事例ですが、この事故の考察と、守るべきセオリーについて述べていきます。

事故の概要

2018年5月5日、新潟市の会社員男性(37)と長男(6)が五頭連山の松平山へ入山。
20時過ぎ 会社員の祖父へ「道に迷ったのでビバークする」と連絡する。
翌朝5時30分ごろ 家族へ「これから下山する」と電話があったのを最後に連絡が途絶える。
それから約3週間が経過・・・・・
2018年5月29日 松平山から約1.7km離れた小倉沢(標高580m)の斜面で警察のヘリコプターがうつぶせで覆いかぶさるように倒れている2人を発見。死亡が確認される。
事故の考察

まず、入山時刻に疑問が残る、午後から入山したというニュース報道と、実は午前中の内から入山していたという後日の情報という2つの情報が錯綜しており、本当の真実は分かりません。昼の段階で松平山8合目での目撃情報があることから午前中の内の入山説は濃厚です。
もし、時間に余裕をもって午前から入山していたのであれば、無謀登山であったとは言い切れません。一方で、目撃者からの情報だと、登山にしては軽装であったとの報告から、登山に精通した方では無かった可能性が濃厚だ。
その後、登山届けや情報不足、その他環境的な悪状況が重なりに重なって発見までに3週間以上の時間を要することになる。助かるのは不可能な日数である。
次に一番腑に落ちない部分になりますが、祖父が出したとされる登山届けも、登山届けも出さずに山に入ったことを叩かれることを恐れた祖父が、登山届けを出していないことを隠蔽するかのごとく、後日慌てて出したのではないかという情報もあります。まず祖父が登山届けを出す意味が分からない。その心理から、祖父はまだこの段階では後で下山してくると思っており、お騒がせした分の弁明を想定し、世間の目を気にしていた可能性があります。このような余計な憶測も広まってしまうので、登山届けは出ていたのか、本人が出したのか、本人以外が出したのであれば誰がどのような意図で出したのかなどの情報も明確にしていただかないと、正しい事故の考察ができません。祖父が直ぐに警察に通報しなかったことも世間の目を気にしての行動だと想定せざるを得ません。しかも電話で松平山と五頭山の間にいることを伝えていたらしいが、捜索されたのは逆方面の赤安山。ここで相当のロスが生じています。Youtube「生きて山から帰るには」の情報では正式な登山届けは提出されていませんでしたと報告されています。ニュース報道では登山届けは出ていたという内容のものが多数だったので、誰かしらが後日登山届けを提供した説は濃厚です。このような不明瞭な動きも登山では生死にかかわります。ニュースの文面が正確な情報かどうかも、もはや怪しいです。
発見時、子供が覆いかぶさるようにして倒れていたとしているが、これは子供が先に亡くなって、父親が背負って、その後に倒れたことを信じたい。
逆に父親が先に亡くなって子供が父親を起こそうと覆いかぶさっていたのだとしたら、それを想像しただけで私は涙が溢れ出てしまった。それでこの事故についてはあまり言及したくなくなってしまった。
実際のところ、このエリアの5月上旬はかなりの残雪期で、もっとも気温が低くなる早朝で10℃以下、下手したら5℃以下だと思います。これは低体温症に十分になる気温です。軽装で一夜凌げただけでも凄いなと思いましたが、防寒具と食料無しではせいぜい3日が限界。したがって、どんなに遅くとも5月8日には亡くなってしまっていたと考察しています。
五頭連山とは?

五頭連山とは新潟県阿賀野市にある、五頭連山県立自然公園の山々になります。国立ではなく県立の自然公園です。私は五頭連山の存在を知らず、訪れたことはないため、ややマイナーで、低山ということもあり、関東の方から訪れる人はそう多くは無いのではないでしょうか。
ちなみに、すぐ近隣の山岳エリアには結構通っていました。
・東側の佐渡島に隣接する、佐渡弥彦米山国定公園の弥彦山
・南側に隣接する尾瀬国立公園の平ヶ岳
・北側に隣接する磐梯朝日国立公園の月山
これらの山行記録もよろしければお読みください。
100名山や有名エリアは同じ新潟エリアでもたくさんの山々があり、それらと比べても、五頭連山の松平山は登る人はかなり少数で、藪の深い低山ということなので、中級、上級のルートファインディング能力が求められることが想像できます。
助かる命だったか?
正直に、助かる命では無かったと思います。登山でやってはいけないこと、その他、不利な条件や不運が重なりに重なってしまったからです。

①気候条件(季節と気象)
写真は、五頭連山近隣の尾瀬国立公園の平ヶ岳の6月の写真です。ご覧の通り、残雪はかなりのもので、朝4時で10℃を下回り、防寒ウエアと防寒グローブを装備しても「寒いな」と震えるレベルだったので、普通の運動着と羽織るレベルの長袖に運動靴などであれば速攻で耐えられなくなるレベルであり、事故当時は5月だったので、更に寒かったはず。時期的な気候条件ではたったの1日でも野営は不可能なレベル。捜索も悪天候でヘリや捜索隊が捜索を断念した日もあったようなので、不運も重なっています。
②幼い子供の同行
遭難時に体力のない6歳の子供が同行していたので行動範囲が狭まり焦りも生じた。1,000m級の低山ならば元気な6歳児なら歩けるだろうが、日帰り登山が前提である。遭難時に6歳の児童が居たことで行動時間、行動範囲が狭まり、早く下山しなければという焦りが助かる可能性を低くした。私も息子と登山をする者として、極めて身が引き締まる思いがしました。10歳ごろから成人した今でも一緒に山に登りますが、装備は勿論のこと、絶対に私が目の届く位置で歩く様に口酸っぱく注意しています。子供との登山はそれだけ緊張するものです。
③不明確な登山届け
明確な行先とスケジュールを記載した登山届けが出ていない所が、捜索が難航した要因となる。報道では登山届けは出ていたと報じられているが、本人が出したのではなく、祖父が後で出したものであるという説が濃厚です。その登山届けも行き先が明確でないため、発見場所と異なる捜索が行われることとなり、発見が遅れる要因となる。私の場合は登山ポストだけでなく、家族にも入山場所と下山場所とルートとそれぞれの時刻、帰宅時刻まで詳細に伝えています。正確な登山届けを共有しているケースでは実際に遭難発見も早いです。本当に。
④装備が不十分
日帰りを想定した装備であり、子供については運動靴だったとの情報。食料、飲料、防寒具の不足がビバークには耐えられず、助かる可能性を閉じたと言えます。地図、コンパス、は不携帯。スマホはあったもののGPSのルート設定などの活用はされていなかったようです。
⑤行き当たりばったり
ひょっとすると、これが最も助かる可能性を無くした主原因かもしれません。それは目標の松平山に登頂したあと、ピストンで下山しなかったことです。この選択が助かる可能性を一気に下げました。時間に余裕があったのか、ルートを把握していなかったのか分かりませんが、行きとは違うルートで下山したいという気持ちが芽生えたのか、五頭山の縦走路の方に進んだことが、発見場所から想定できます。
小さいですが、地図中央に赤い✕印がありますよね。そこが親子の発見場所です。思いっきり遭難していることが手に取るように分かる場所で発見されています。遭難あるあるのモデルケースをなぞっているようです。
沢筋に迷い込んで下ってしまったが、登り返すのも辛いし、いや、そもそも「迷ったら登り返す」というセオリーすら知らなかったかもしれません。とにかく沢を下ればいつかは下界に辿り着くという希望的観測から下り続けて進退窮まった末路ということです。
沢に入り込んではいけない。迷ったら登り返すのがセオリー。それを無視した事例として教科書に載るようなモデルケースであると判断できます。
引用:ブログ ロングトレイルの旅 五頭連山の遭難に思う より
この写真をご覧ください。実際に親子が道誤りを起こした現場だと思われる場所を撮影されたものです。右と左の分岐はどちらが正解でしょうか?正解は左の藪の中を進むルートです。右の雪渓を下ることで沢に行き着いてしまい登山道とはまったく関係のない場所に辿り着き下山は不可能となります。
雪道は目印ではありません。ぱっと見、ルートに見えてしまうのでそのまま進んでいきたくなる気持ちはよく分かります。ただあらためて思うのは、ずいぶん不明瞭な登山道だなと、鳥肌レベルで警戒心が芽生える写真です。
この場面では、地図、コンパス、GPSの活用が必要で、それでも間違った方向に進むことはベテランでも十分にありえるので、自信が無い道では2~3分おきに地図や歩いてきた方向を振り返りながらこまめに確認することで、「あれ、間違ったかな」と早期に発見することができるのです。
登山道を踏み外していると、足元の感触と周囲の雰囲気で直ぐに分かりますが、そのような感覚を持ち合わせていないか、間違っていることを認めず、合っているはずだと思い込み進み続けてしまったか、間違ったことを把握しながら登り返すことが億劫になってしまったがなどが、計画性の無さと相まって、助かる可能性を閉ざしてしまいました。
⑥遭難事例の少なさ
長野、岐阜などの北アルプスエリアや妙高戸隠など登山者が大勢訪れて毎週のように遭難の捜索が行われる場所と違って、五頭連山は新潟県警の管轄する北アルプスの救助に慣れたチームではない捜索隊が担当したことも発見までに時間を要した1つの要因だと考察します。誤解のないように、これは捜索部隊の落ち度があるとは全く思っていません。北アルプス方面の捜索がいつも比較的早く遭難者を発見できるのは、毎日のように捜索が行われていることによる数多くの事例と経験が貢献していることを伝えています。比較して五頭連山はあまり遭難のニュースなど聞くことがないので、事例の少なさが捜索を難しくしているのも発見を遅らせる間接的要因にはなっていると思います。謎の登山届けが共有されていたのであれば、それが捜索のロスになっていることも。
今思う事

まとめると、気候条件、子供同行、入山届け、装備、経験値、救助体制、6つの悪条件が全て重なるという不運もあって、助かる道は完全に閉ざされたと言えます。この6つのうち、1つか2つ好条件が整っていれば助かる可能性は浮上していたと思います。
気候が夏だったら、もう少し長く生きれたかもしれない
子どもが同行していなければ、焦りによる強引な沢下りをしなかったかもしれない
登山度届けが正確だったら、もっと早く発見できたかもしれない
装備が十分だったら、もう少し長く生きれたかもしれない
経験値が十分だったら、登り返すという判断をしたかもしれない
遭難事例が豊富な場所だったら、ノウハウにより早期発見できたかもしれない
今更「たられば」を行ってもしょうがないですが、そのほとんどが登山の大切なセオリーであり、遭難しないための心得でもあります。
その全てを無視した結果、更には ”不運” も重なることによって無事に下山することはできませんでした。
何が起こるか分からない登山は「運」の要素も大きく、どれだけ対策を取っても事故を起こしてしまう可能性をゼロにはできませんが、
自分で出来る準備はたくさんあります。それをまったくしないで登山をするとこのような結果が待っていますよ。という後学のための学習材料として、本事故は登山初心者に伝え続けていく必要があるでしょう。
私の道迷いの記録や「迷ったら登り返す」を伝えるいくつかの記事を紹介しますので、合わせてお読みください。
この事故を教訓に、登山に慣れたと言えど決しておごらず、事故を起こさないよう細心の注意を払って登山を続けていきたいと思います。
参考にしていただけたら幸いです。






