登山のリスクを一覧にして解説します
皆さん、こんばんは。社団法人ランナー龍(たつ)です。
登山における最も大きなリスクは ”転倒・滑落” です。
実際に発生している事故の50%以上が転倒滑落によるものだからです。
※令和4年 長野県山岳遭難統計より
実際、8年間登山を続けてきた中で「ヒヤッ」とした経験も
”滑落” でした。
私は登山、トレラン両方で転倒滑落を経験し、
捻挫、肉離れ、出血など、それぞれ全治数日、数週間、数カ月に及ぶ怪我を負いました。
骨折など大事に至っていないことが不幸中の幸いです。
そういったことから、しばらく私は
登山におけるリスクとして「とにかく転倒・滑落に気を付けよう!」
と、考えていました。
ズバリ、滑落への意識に一極集中だったのだと思います。
一度崖から落ちると、しばらく崖が怖くなるものです。
ただ、それだけだとダメだと思うんです。
登山者の年齢や経験値、体力などによって想定すべきリスクは変わってくるのですが、
登山のリスクは私たちが思っているよりもっと沢山あるということです。
登山は運動になる、景色が良い、山ごはんが美味しい、
仲間と登るのが楽しい、百名山を制覇する、
体を動かした方が良い、このくらいは意外と登れる、前回は簡単に登れた。
このように、登山の楽しい部分や過去の経験から、リスクを過小評価し、
見えなくなってしまうことで、いざという時、そのリスクが表面化して事故が発生します。
山から生きて帰ってくるためには、広くリスクを知ることが先ず大切だと感じます。
そこで今回は登山のリスクを一覧にして紹介し、
実例や経験談を交えて詳細にお伝えしますのでお読みいただけたら嬉しいです。
もくじ |
山のリスクとは?
山のリスクは、冒頭で説明した、登山の楽しい部分や「大丈夫でしょう」という慢心が、リスク管理の意識をかき消してしまうことにあります。
リスクばかり考えてしまったら不安になって、楽しい気分が台無しになってしまいますものね。
つまり、ここにリスクがあります。
登山は準備の段階から始まっており、登る山と自分の体調を鑑みて、どんな準備をするべきか事前によく考えることが肝要です。
・装備(持ち物)
・心の準備
この2つを前日に整えておくことです。
具体的に考えておくこととして、
体調が優れなければ、不参加も検討の上、途中下山やエスケープルートも見出しておかなければいけない。
登る山の登山道状況はどうか?直近の雨による崩落、倒木による登山道分断や通行止め情報、人身事故など発生していないかなどの情報は、登る山の山小屋のホームページやビジターセンターのサイトなどで確認ができるし、山と渓谷社やヤマレコ、ヤマップなどのポータルサイトでも情報を得ることが出来る。
特に山と渓谷社の山と渓谷オンラインはこのあたりの情報収集にお勧めです。
自分のバイタルの状態と登る山の状態に、単独か集団か、天候やスケジュールなどを総合的に加味すると、必要な持ち物や心構えと言うものが見えてくる。
これをおろそかにすると、遭難します。
遭難とは?
遭難とはどういう状態を指しますか?
私が登山のセミナー講師を務めた時、この質問をすることが多いのですが、
90%くらいの確立で 「道に迷うこと」「道が分からなくなること」 が回答されます。
もちろん、それも含まれるので正解ですが、厳密に言えば不正解です。
私の考える遭難の定義として、以下の例が含まれます。
- 水切れによる行動不能
- 食料切れによる行動不能
- 道迷い
- 滑落
- 転倒による行動不能
- 持病の悪化
- 落石を受けてしまう
- 落雷を受けてしまう
- 熱中症による行動不能
- 低体温症による行動不能
- 野生動物の襲撃(毒虫含む)
- 疲労による行動不能
- 同行者の行動不能
どうでしょうか。パッと考えただけでこれだけあるのです!更に、自分だけの問題でもなく、同行者が動けなくなっても、まさか見捨てるわけにいかず、巻き込まれる形で遭難に陥るということもあるのです。
おしなべて、これらのいずれかが起因して行動不能になることを遭難と言います。
リスクだらけじゃないですか(笑)
ただし、正しくリスクを恐れ、対策することでその可能性を縮小することはできますよね。
山岳遭難統計
机上の空論のみならず、実際に遭難は多く発生しています。
ニュースなどでは特に大型連休などでは連日事故の報道がありますよ。
何が起因して発生しているのでしょうか。
各県警等による山岳事故発生状況が様態別に公表されていますので、これらの情報で把握することが出来ます。
令和4年 長野県山岳遭難統計 様態別発生状況
全体のうち、滑落が27%、転倒が23%で合わせて50%であることが分かります。なので、遭難事故の半分以上が転倒・滑落によって引き起こされていることが分かります。
道迷いと思われる遭難で捜索するときも、崖下の付近で見つかるケースも多い事から、滑落が起因していると考えることが出来るでしょう。
そして、遭難の代名詞である「道迷い」も15%と比較的割合が上位にあるものの、無視できないのが
「病気」である。
つまりは、持病の悪化によって登山中にお亡くなりになられてしまうケースが多いということです。
富士山などでよく聞きますが、最も多くの初心者が登る過酷な山という異名がある通り、
持病のあるかたも登られているのでしょう。
出典:信濃川日出雄©「山と食欲と私」
健康のために登山をするのに病で倒れるなんて本末転倒。ですが、どんなに気を付けていても、その可能性を完全に排除することは出来ない。
気圧も酸素濃度も異なる高山帯では、心臓発作や持病の悪化なども遭難リスクとして捉えておきたい。
身近な山岳遭難事例
高山帯では無くても、低山や近所の山、初心者向けと言われる易しい山でも事故は発生する。
挙げたらきりがないが、ここでは4つ抜粋します。
①神奈川県、丹沢山地、西丹沢の檜洞丸での滑落事故 ※滑落は推定
70歳の男性が単独で登られ、予定時刻に下山しないことから翌日には捜索願が出されている。捜索2日目には遺体で発見されていることから、当日中の下山時などに滑落してしまったものと考えられる。
西丹沢はやや玄人向けだが、東京横浜方面からのアクセスが良く、たくさんの登山者が訪れる場所だ。
②神奈川県、丹沢山地、西丹沢の畦が丸での滑落事故
同じく西丹沢でしかも同時期に、近い場所で滑落が発生した。今回は女性で単独ではなく13人のパーティー登山なので、先ほどの事例とは状況が異なるが、単独でなく集団の登山であっても遭難事故は避けられないという事です。
③新潟県、南魚沼市、八海山での熱中症による死亡事故 ※熱中症(熱射病)は推定
7月の猛暑日に起きた事例。このエリアは自然が深く、夜間早朝は冷え込むと低体温症を起こしそうな寒さに見舞われるが、日中の標高の低いエリアでは蒸し暑く、汗が噴き出る苦行となる。
持参する水分量を見誤ると、熱中症で身動きがとれなくなることが容易に想像できます。夏の登山で絶対に警戒すべきことは熱中症です。
④栃木県、那須エリア、朝日岳での低体温症による死亡事故
まさかこの季節に!という言葉がもはや ”あるある” である。山では夏でも低体温症は発生する。
この事例では10月7日なので、秋ではあるが、まだ陽気な気温で登山シーズン真っ盛りである。しかも朝日岳はロープウェーで稜線に上がることが出来る為、比較的初心者が登りがちである。
標高も2000m近くあり、中級クラスの山なので油断は禁物。展望が良い理由として風を遮る木に覆われていないことが特徴にあるが、言い換えれば風の通り道になり、気温が下がれば風速の影響ももろに受けるので、低体温症のリスクと、風に飛ばされることによる滑落などのリスクが想像できる。
このニュースでは案の定、4名が低体温症によって亡くなられている。しかも同じパーティーではなく、複数のパーティーが同じ状況に陥ったことを考えると、この日ここを歩いていた全登山者が同じリスクにさらされていたということだ。
お亡くなりになられた登山者の中には医師もいたようで、自らが低体温症になっていると通報をしている。
がしかし、早期通報も虚しく、風速20mの稜線をレスキュー隊が向かうことは出来ず、翌朝の捜索になってしまったことから、プロでさえ二次遭難の可能性があったと思う。そして低体温症の症状を発症しながら、身動きできずその場で一晩を明かすことは絶望的である。
この事例で伝えたいポイントは、単独でも集団でも事故は起こるし、熱中症と低体温症が同じ季節に起こりうるということになります。つまり、圧倒的に滑落が多いが、それだけに捉われてはいけないということ。
熱中症と低体温症
熱中症と低体温症の経験談をお話します。
熱中症
いずれも真夏のランニング中、またはランニング後に発生したことです。
熱中症になる直前の状況として、尿の色が著しく濃いオレンジ色になっていて、ほとんど出てこない状況で、喉はカラカラで、水やお茶を飲んでもあまり喉を通らず、塩タブレットも口に含むだけで吐き出してしまうほど吐き気を催している状態でした。手足がしびれて意識が朦朧となり、地面に倒れ込みました。その勢いで足が攣ってしまい、立ち上がる力さえ出せませんでした。命の危険がありました。なんとか日陰に入り込み、手持ちの麦茶をゆっくり飲み、起き上がって自販機でポカリを飲んで、しばらく回復させたら今度は自家用車の中に常備していたOS-1(経口補水液)を飲んで、正常を取り戻しました。
別の時では、ランニング後、たくさん汗をかいた分、塩分を摂ろうと中華料理屋に入り、ラーメンを注文するのですが、ラーメンを口に含んだ瞬間激しい吐き気に襲われ、1口以上、食べ進めることが出来ず、定員に謝り、店を出ました。意識が半分朦朧としている状態だったので明らかに熱中症の症状が出ていたと自覚しています。
熱中症気味はレース中も含み、日常茶飯事にあることなので、ついあたりまえのこことして捉えてしまうのですが、これがもし登山中に起きたら本当に助からない可能性もあります。
低体温症
低体温症になると体はどのような感覚になるのでしょうか。私の経験を書きます。
STEP1 寒いと感じる
STEP2 寒いのが耐えがたく、苛立ちや、寒い寒いと声が出てしまう。普通に動けるが手先足先が冷たい。
STEP3 震えてくる。歯がカチカチ音が鳴ってしまうほど震える。今すぐ暖かいところに潜りたい。動きが遅くなってくる。
STEP4 歯のカチカチが止まる。寒さを感じなくなってくる。感覚が鈍くなってくる。意識が少し朦朧となり、動きも遅い。辛うじて歩行の継続は可能だが、次のSTEPまで進むと行動不能になるだろうという危機感に見舞われる。少し眠い。
これ以上は未経験です。(だから今生きているのですが・・・)
体温が34℃を下回ると、明らかな低体温症。このSTEPがさらに進行していくものと思われます。ちなみにこの経験は8月の標高3,000m地帯での経験です。暴風雨でしたが気温はさほど低くなく、凍傷の恐れはなかったです。それでも低体温症は起きます。
気温が15℃下回ったら低体温症を警戒するようにしています。雨が降っていたり、風が強かったり、半袖短パン防寒具無しだったりすると、危ないです。
まとめ
山で行動不能になり下山できなくなることを遭難と言い、起こりうるトラブルの総称でもあります。
遭難は単純な道迷いよりも、転倒や滑落で身動きが取れなくなるケースが圧倒的に多いです。
それに加え、持病の悪化や熱中症、低体温症も侮れないリスクです。
登山リスクを、登山前に洗い出して、対策をすることで、その可能性を小さくすることができるでしょう。
これから秋の本格登山シーズン。今年も安全登山をお楽しみください。ではまた!