働き方改悪?働き方改革の落とし穴にハマらない戦略
2019年から施行された「働き方改革」
制度を守るために推進するも、実現性に無理があり、一部では ”働き方改悪” に揶揄されているようです。しかし、2024年からいよいよ物流業界にも適用され、正念場はこれからといったところ。
働き方改革の何が悪いのか。
本当に働き方改悪になってしまうのか。巷の反応は?制度の落とし穴は?物流業界の対策は?転職した方が良い?私たちはどう考えれば良い?
筆者は産業カウンセラーとして、長年労働者の不安や動向などを観察してきました。働き方改革に対し、皆はどう思っているのか、雑多に広がる疑問について、制度施行後の推移を見ながら本質を見出していきたいと思います。
もくじ ・まとめ
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働き方改革とは
残業時間や有給休暇取得の義務化などを盛り込んだ制度が「働き方改革関連法」としてが2019年4月より段階的にスタートしています。
段階的にというのは、例えば中小企業は2020年からスタートしたり、特定の業種、業務に至っては、例えば運送業のドライバーに対し満を持して2024年4月からスタートするということで、これが2024年問題として今まさにクローズアップされているところです。
又、働き方改革の趣旨としては、「労働時間の短縮」、「余暇の充実」、「健全な労働環境による生産性の向上」を実現し、働きやすい世の中を作ることにあります。
具体的な制度の内容は次の通りです。
・時間外労働時間の管理
- 時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満
- 時間外労働が月45時間を超えてもよいのは年間6ヶ月まで
- 2~6ヶ月の平均残業時間(休日出勤含む)がすべて80時間以内であること
- 時間外労働時間80時間が2ヵ月連続で超えないこと
- 時間外労働は年720時間以内にすること
・年5日の年次有給休暇の取得
・月60時間超の残業の割増賃金率50%引き上げ
・フレックスタイム制の清算期間延長(1カ月から3カ月へ)
・高度プロフェッショナル制度の導入※年収1000万越え、特定の専門職(医師など)は1日の基本労働時間の設定を本人同意のもと撤廃できる
・産業医・産業保健機能の強化
私が理解している内容をざっと挙げました。まだまだあります。さらに詳細に把握されたい場合は厚生労働省のリーフレット等を検索され参照してください。
2024年問題とは
働き方改革の適用により、ドライバーの時間外労働時間が年間960時間に制限されることで、一人当たりの走行距離が短くなり、長距離でモノが運べなくなるとことが叫ばれています。
これによる懸念事項として、ドライバー不足、物流の停滞や配送遅延、運送料の高騰が考えられ、ズバリ経済への影響が心配されています。
この件についてはドライバーの収入が減るという話がクローズアップされます。
労働時間が960時間に制限という所についてですが、これは月換算すると80時間の残業時間になります。仮に時間外手当1時間当たりの時給が2000円だとすると、80時間残業で16万円にもなるわけです、これじゃご飯が食べられないとなると、じゃあ一体基本給や各種手当はいくら貰っているのか、残業代がみなし労働賃金として基本給に組み込まれていないかなど心配になる。
働き方改革の背景
今や正社員として働く女性が増えてきているものの、戦後からの男女分業すなわち、男は働き女は家事育児という概念が意外にも根強い背景にあるようです。
これに近年の人口減少及び将来の労働人口減少への懸念を払しょくさせる対策として、長時間労働をさせない法改正と家事育児介護を両立しながらでも働きやすくするという意図があります。
これが 「一億総活躍社会」へ向けた取り組み イコール「働き方改革」なのです。
私としては少子化をどうにかした方が良いと思いますが、それは望めないのか、だったら主婦も正社員として働け。ということか。誰も口に出さないけど。
問題点を暴く
労働時間の短縮などは耳障りも良く、一見良さそうな働き方改革。施行され数年が経過していますが、不安や問題の声がよく聞こえる。何が問題なのか。
先ずは、残業時間の上限が長すぎる。20代30代の若手ならともかく、月45時間の残業は相当ハードで、かなりの拘束時間に感じる時間だ。それで状況によって80時間まで上限が認められるのは、家事育児介護を両立する者からしたら何の魅力もない。そもそも家仕事がある方が残業前提の職を選ばないだろう。
報われるのは、月間100時間以上残業を強いられてきた方の労働時間の緩和になれば過労死などのリスクが減ることに期待できる。
ところが、法律はそうであっても、実際に仕事が減るわけではない。
するとどうなるか。
家に持ち帰って隠れサービス残業ということになる。普通に。
ある程度の規模の企業であれば、業務用パソコンの操作時間は仕事時間とみられることで制御は出来るが、それでも誰かがやらなければならず、業務指示を無視してお客様のために残業したら、その行動は本人の責任として悪者になる。これが最も報われないケースだが、こんなことはごくごく普通にある。
一斉消灯する企業もあるが、家に持ち帰って続きをする。
法律上の年5回の有休消化も、消化しながら家で仕事。
そもそも残業しない人は最初からしないし、真面目にやってしまう人に仕事は一極集中し、特定の部署や人に負荷がかかり続ける構図は変わらない。
制度や仕組みの導入で、働き方改革を「やったつもり」になり、業務時間を根本的に減らすことができていないと、しわ寄せが来ます。
仕事の仕方を変えずに労働時間を減らして成果を上げるなど不可能。
正社員のテレワーク実施率が22.2%に低下、2020年4月以降で最低水準~パーソル総合研究所調べ
テレワーク実施率(正社員ベース)の推移を見ると、2020年3月に行われた第一回調査では13.2%だったものが、4月の第二回調査で27.9%に上昇。その後、11月の第四回調査で24.7%まで下がったが、2022年2月の第六回調査で再び28.5%にまで上昇していた。今回の調査では22.2%に下がり、2020年4月以降で最低水準となった。
大企業でもテレワーク実施率が低下、2022年2月がピーク
2023年7月現在の企業規模別テレワーク実施率(正社員ベース)は、従業員10~100人未満で12.5%、100~1000人未満で20.4%、1000人~1万人未満で31.3%、1万人以上で35.4%だ。従業員規模の大きい企業ほどテレワークの実施率が高いが、2022年2月をピークに低下してきている。引用:Internet watch 仕事/働き方 テレワーク より一部抜粋
働き方改革の一環として一生懸命テレワークしようとするけど、効率良くないし無理があるから続かないですよね。成立するなら何故今までやらなかったの?と突っ込まれるのみ。こんなことは必要ならやれば良いし、効果がないならやるべきではない。
「やったつもり」ほどくだらないものは無い。
特に問題なのは、従業員のモチベーションダウンである。
残業をいちいち機嫌の悪い上司に事前承認しなければならないストレス
残業多い人にペナルティを課して評価を下げる
残業削減した分浮いた人件費経費が「給与」「人員増員」「設備投資」に明らかに還元していないことへの会社に対する不信感
結果、法律通り改革しているのに、人材流出が止まらず、新人は定着せず、係長、課長クラスの中間層クラスの離職も発生し、企業パワーのダウンに拍車をかけかねない。
勿論、批判をしたいわけではありませんが、企業体質によっては働き方改革との相性が悪く、働き方改悪のトリガーとなってしまうかもしれません。
そう思う理由は上記に挙げた内容だけでなく、転職エージェント会社の暗躍である。電車の広告も凄いがテレビCMもバンバンかけて、転職を勧めまくっているではないか。
何故か。今がビジネスチャンスと思っているからです。
とるべき戦略
巷では働き方改革は残業が出来なくなり収入が下がるという反応が顕著に見られている。転職を視野に入れている声も多い。
このような状況下の中で、自分自身どう考えたらよいか。ここは冷静に自分や周囲を客観視して欲しいと思います。今は売り手市場(労働者が有利で採用されやすい)であり、これは確かだと思いますが、
だからといって、今働いているところを見捨てて転職しようと咄嗟な行動に出るのはちょっと待って欲しい。
会社にしがみつくのはみっともないかも知れないし、1つの会社で勤め上げることを美とする昭和の時代とも違うのは確かですが、
転職エージェント会社の言うような夢のキャリアアップが必ずしも実現できるとは限りません。年収アップに成功しても、その企業が安泰かどうかは分からないのです。
転職を行う前に、今働いている所の財務状況を是非知ってもらいたいと思います。立場によっては詳細に把握することは難しいかも知れませんが、総売り上げや営業利益を把握して欲しい、経費との構成比や損益通算、資産状況など多少の会計知識で、今の会社の地盤が安定かどうか、ざっくりは分かるかも知れません。
そうすることで、上司はクソだけど、会社としては安定していて近い将来で明らかに業務が縮小する傾向が想定できないのであれば、
意外と残るべき会社だった。
なんてことも思えたりするかもですよ。
ガチャピンも動画内で「辞めちゃっていいよ」と言っていますが、命の危険が無いのであれば、勢いでの転職は早まるべきではない。
けど、これ見てたら泣けてきた・・・・。
キャリアアップにこだわるのであれば同時に他社、他業界動向もアンテナを張って、チャンスがあれば転職すべきなのは、物価高の世の中だからでも将来が不安だからでもなく、普段から検討すべきことで、今慌ててやることではないでしょう。
使用者(社長や経営者)の動き、政府や法改正の動きを注意深く確認しながら、自分にとっての理想の働き方、人生は何かを考え模索してくことがとるべき戦略と言えるでしょう。
働き方改革や2024年問題についての巷の反応は「とにかく収入が減る」である。
よく知ってか知らずか、このようなイメージが多数を占める中、
転職や新卒の企業選びの基準が、
”やりたい仕事” よりも ”避けたい仕事” に目が向いている。
仕事が減る業界、忙しすぎる業界、キツすぎる仕事、収入が望めない仕事を避け消去法で職探しと言うわけだ。
「就職を避けるべき業界14選」という記事を読んだらほとんど全ての業種が入っていて流石に笑った。
さらに言えば、むしろ今、FIREという言葉に憧れる若者も多い。
FIREとはFinancial Independence, Retire Earlyの略で、経済的自立による早期リタイアを意味している。
とどのつまり、働かず不労所得等でご飯を食べたいということなのだ。
実際働きたくない、働けない若者は高止まりしている状況。
15~39歳の43人に1人が該当…「ニート」人口比率の推移と現状をさぐる(2023年公開版)
概算だが2022年では15歳から39歳が43人集まると、そのうち1人がニートとなる。
このグラフ・値の動向の特徴としては、景気動向に大きく左右される事なく、上昇していた点が挙げられる。
一方で2020年の急激な上昇は、前述した通り新型コロナウイルス流行によるパート・アルバイトで働く若年層の解雇が要因だと考えられる。2021年では大きく戻したものの、2019年と同値にとどまっている。
就業構造や社会情勢に大きな変化が無い限り、この比率は引き続き中期的には上昇を続けていくものと考えられる。今後もニート数の絶対数とともに、該当年齢階層の人口比についても注視する必要があることには違いない。
出典:Yahooニュース 「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者2023/3/20(月) 9:00記事より
氷河期~ミレニアル世代の私からしたら働かず生計を立てる考えなんて当時はまったく見当もつかなかった。今の若者はこのような知識もあり、職を選ぶ慎重さと一定の経済リテラシーがあって賢いと思う。
慎重になることには賛成だが、苦労は進んでもやるべきというのが私の持論。
新卒者が血眼に調べているのは離職率だ。
厚生労働省による新規学卒者の離職率調査によると、以下の業界がワーストに軒を連ねた。
業種 | 離職率 |
1位 宿泊業・飲食業 | 51.4% |
2位 生活関連サービス業・娯楽 | 48.0% |
3位 教育・学習関連 | 46.0% |
4位 医療・福祉 | 38.8% |
昔からあまり傾向は変わっていないと思いますが、これは就職後3年以内に離職しているかどうかの調査です。
これは必ずしもネガティブなわけではないと思う。離職率が高い業界で長年勤められる人は重宝されるし、年収ステップアップで転々としているだけで、同じ業界で働いているのであれば、本人としてはある意味狙い通りな訳で。。
医療福祉は国家資格でご飯を食べているので、それこそ同じ職場に留まらなければならない理由は薄く、生活様式に合わせながら転々としてもおかしくはない。「手に職」とは言ったものだ。
このよう方々は会社を見限るのも早く、転職も躊躇ない場合が多い。
そう考えると、この業界が必ずしも悪いという色眼鏡は持たず、
「進んで志望する」のも戦略によっては当然あり。
綺麗ごとはやめよう。結局、過酷な労働によって世の中が成り立っているわけです。
夜通し働くタクシードライバー、当直の看護師、長距離ドライバー、バカンスの時期に休みなく働くホテルマン。たくさんの高齢者のお世話をする介護士。子供のお世話をする保育士。町を作る建設業や大工。
たいへん特別に感謝されている業種ですが、裏腹に様々な事情で避けられがちです。
何故?きついから?
正社員の人手不足は52.1% 「2024年問題」の建設/物流業では既に約7割に
~ インバウンドが好調な「旅館・ホテル」も深刻な人手不足 ~人手不足が事業継続を揺るがす経営リスクとして顕在化しているなか、企業の人手不足の状況について調査を実施した。
正社員の人手不足企業の割合は52.1%となった。業種別ではインバウンド需要が好調な「旅館・ホテル」(75.6%)がトップとなり、エンジニア人材の不足が目立つ「情報サービス」も72.9%で続いた。また、2024年問題が懸念されている建設/物流業でも、それぞれ7割近くに達した
もう変わりはいくらでもいる時代ではなく、業務を全う出来れば間違いなく重宝されます。ライバルが少ないのであればそこで働きやすい労働条件を勝ち取ったり、収入アップするチャンスも可能性が見られれば、同期を差し置いた独り勝ちもある。
人が避ける業界を同じように避けていれば、他の人とおんなじ価値観であり、そのマインドでは結局成功できないのではないかと私なら思ってしまいます。
消去法より、自らが志望する。が戦略としては適切。
(但し人手不足倒産が増えているので、厳しいと言われる業界の場合は人材確保や業績や財務状況もよりよく調べておく必要はある)
2024年問題渦中の物流業界でも、人材確保を視野に入れてか対策をプレスリリースしている。
佐川急便が2024年4月からの値上げを発表 物流の2024年問題への取り組みは
佐川急便は宅配便などの届出運賃を2024年4月1日より「飛脚宅配便」で平均7%程度のほか、「飛脚特定信書便」「飛脚クール便付加料金(対象は140サイズ〈30kg〉のみ)」「飛脚国際宅配便」での値上げをする。
改定率については、下記の通り。
■飛脚宅配便:平均7%程度
■飛脚特定信書便:平均5%程度
■飛脚クール便付加料金(対象は140サイズ(30㎏)のみ):220円の値上げ
■飛脚国際宅配便:平均6%程度2024年問題に対応した生産性の高い業務の委託については、スワップボディ車、高速フェリーへのモーダルシフトにより長時間運行を短縮する。また荷物を降ろす場所がないため、発生していた待機時間を、大型中継センターの建設により削減する。
従業員の労働環境にあたっては、人員配置の見直しやデジタル化による生産性向上に取り組み、残業時間の上限である年間960時間は下回る水準だとしている。
引用:ECのミカタ 2023/10/27 ECのミカタ編集部 記事より
佐川急便と言えば、Amazon宅配の個配から一早く撤退した会社であるが、2024年問題対策もいち早く動いたという事か。上記の対策がどれだけ功を奏するのかはわからないが。
最後に伝えるもう1つの戦略として、労働者としても、働き方改革で逆に不利益を被らないようにアンテナを張っていただきたい。
働き方改革で、年次有給休暇5日間の消化が掲げられているが、これによる有休消化を賞与減額や評価低下にしてはならないと、厚生労働省のQ&Aに記載があった。
(Q)使用者による時季指定によって年5日の年次有給休暇を取得させた代
わりに、精皆勤手当や賞与を減額することはできますか。
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(A)年次有給休暇を取得した労働者に対して、賃金の減額その他不利益な
取扱いをすることは禁止されており(法第 136 条)、精皆勤手当や賞与を
減額することはできません。
出典:厚生労働省 改正労働基準法に関するQ&Aより
皆勤賞手当という制度がある会社自体がなんとなく恐ろしいが(笑)有給とったら賞与を減らす?とんでもないね。
まとめ
働き方改革によって助けられる労働者も居れば、生活残業としてフル残業代を稼ぐ働き方を希望していた人も居るので、誰もが喜ぶ制度ではないと思う。
副業を推奨するにしても、内容次第ではあるが、労働時間以外にまた働くことになるので労働者本人の過酷さは変わらず、場合によっては責任の所在が分かりにくい労災のリスクがある。
副業推奨や週休3日制も賃金ダウン及び上がらないことが容認されやすくなり、会社のリスクというよりは労働者のリスクが生じやすい。
高度プロフェッショナル制度の導入は、労働時間制約の撤廃なので無限に働かせることもできてしまう落とし穴も指摘されている。勤務医が不眠不休でオペ(※手術)にあたるなど。法は整備されても会社内での仕事量はそう変わらない。
産業医・産業保健機能の強化もあるが、非常勤で産業医を雇ったとしても、任せきりにしていては改革など期待できず、使用者を積極的に関与させるべきである。
働き方改革の見えない落とし穴にはまってしまわないよう、この制度に振り回されてしまわないように注意を払う必要はあるでしょう。
「働き方改悪だ」と嘆くことにならないよう。 ではまた!